♣3月号 理事長コラム 「子どもの宇宙 言葉の発達と絵画教育 」

2021年03月09日

トピックス

この時期は、子どもの成長が目に見えて輝く季節です。

子どもが大きく育ち往く時期でもあります。春に向けての冬ごもりで力を蓄えていた命ある生物が芽を吹き出すように、子どもたちの生命体も、春に向けて芽を膨らませる春三月。いよいよ巣立ちの季節です。

自らの力で、大きく育つことが 子どもの仕事であり、その育つ過程を温かく見守ることが 私たちの役割だと念じています。

「子どもにも仕事はあるのですか?」

「それは、あそぶことです」

幼い頃、たくさんあそんだ子どもは、成長して活力のある仕事をします。

年中5歳児の絵のモデルになりました。理髪にでかけたり、ネクタイを選び、鏡の前でポーズを考えたり、子どもの心への導入となる「お話しの仕方」を工夫したりして子どもたちの前に緊張して立ちました。

子どもが、絵を描く時、モデルである私との話しを通して、子どもたちは、心のキャンパスに「私のイメージ」を焼け付けます。「イメージ」が沸くと、子どもは、一気に画用紙にパステルを走らせます。やり直しもせず一発勝負です。

お絵かきの当日、画板を前にして緊張している子どもたちに自己紹介をしました。「81歳。お爺ちゃんです。でも、足を長く伸ばして、手も大きく振って、かっこよく元気に散歩しています。自慢は大きな耳です。お話し大好きだから口は大きいし、髪の毛もすてきな床屋さんで黒くふさふさに染めてもらいました」

「だから、サッカー選手のようにかっこよく描いてください」

子どもたちからの質問「英語はしゃべれますか」「アメリカへ行ったことがある?」「早く走れますか?」と質問が続出。

結果、足の長いかっこよいおじさんがニコニコと散歩しているすてきな絵がならびました。

年中竹組、5歳。2月から3月にかけて、言葉の語彙も増えて、言葉・単語が積み木の様につながり重なって「文章」になって会話ができるようになります。

同じように子どもが描く絵も、いろいろな形が組み合わされて、□が重なってビルになり、○と□が、くっついて自動車や汽車になって絵に表情がでてきます。

案山子人間だった「人間の全身」も、耳、目、口、鼻が調和されて「顔」になり、その顔が「首」でもって「胴体」とつながり、2本の「足」と「手」が左右に別れて伸びて動き出したりします。

幼児が描く絵は、すてきな自然の中で、動物や虫、魚の仲間たちと踊り歌う「お話し玉手箱、ミュージカルショーのような楽しい絵が描けたらといいなぁ」と願って、松組の子どもたちと一緒に絵を描いて楽しんでいます。

私が子どもたちにサポートできることは、子どもがリズムにのって描けるように、「温かいほめ言葉」魔法のささやきです。

もう20年前になりますが、文部科学省での資料集作成会議で、ご一緒した東京の園長先生の話された幼稚園のエピソードを紹介します。

「ある寒い朝の保育室、4才のエミちゃんは、一人でお絵かきをしていた。通りかかった実習生が「あらっ お日様が三つもあるの?」と声をかけたら、エミちゃんは絵を伏せてしまいました。しばらくして、絵美ちゃんがお絵かきをはじめると、担任の保育者が絵美ちゃんの肩に手を置いて「あらぁ エミちゃん お日様が三つもあって、あったかそうね」とささやきました。エミちゃんはニコニコ笑顔になって、「うん きょうは さむいからね」。同じ「お日様が3つもあって」の言葉がけも、魔法にかかると言葉は変化します。

子どもの心が弾むとクレパスを持つ手も楽しく歌うようにスキップしたり,楽しそうに動きだしたりします。

2歳から3歳そして4歳 ・・・子どもは、自分で感じた気持ちをもだえながら言葉で伝えるように育ちます。言葉の表現がままならない過程で、心の映像を線と色・・・お絵かきで表現したりします。

3才児はつぶやきながら、クレヨンでたどたどしく思いを○で表現します。幼い子どもが、つぶやきながら描く○い線を「まど みちおさんは子どものおへそ」として大切にします。ドラエモンに象徴される○は「子どもの宇宙」として大切にしてたくさんたくさん描いてください。

4歳になると「子どもの宇宙」は、上から下から横から斜めから二つも三つも交差して動き始めます。「考える世界」が広がるのでしょう。

5才になると、心に描いた「思いや考え」を静止画面ではなく、アニメの世界の動画のように動きとして捉えることができるようになります。

言葉や絵が動きだすと、止まりません。「ねえ聞いて聞いて」と自分の宇宙を広げ掘り下げていきます。

幼児教育だからこそ本物との出会いは大切です。できる限り教材は、本物を大切に使いたいと努力しています。船橋の漁市場でおじさんが選んでくれた新鮮な魚。

口から泡を吹いている生きている毛ガニ、目玉がクリクリした赤い金目鯛、ぺったんこのカレイ、羽がついているホウボウ、串刺しの鰯、大きなサバと鰹、ピカピカの鯵・・・子どもにとって目が回る様なめずらしい魚が並びました。

魚のうろこに触った感触、サワラの口に指を入れたり、しっぽををもってぶら下げたり・・・とても楽しそうでした。

近頃は、スーパーにでかけても、魚に直接、触れることができません。鮭もぶりも切り身でラップで包まれているし、尾頭付きの魚はアジか鰯・・・それも鮭は切り身でアジは干物が多いので・・・本物の魚との接触体験は貴重でした。

子どもにとって、絵を描くことは、自分の思いや願いを伝える手段です。

ですから、子どもの絵を見る時、絵を通して子どもが、語りかけるお話の世界を聞いてあげることです。子どもが描く線と形は、口で発する言葉と同じです。

子どもが描く絵の世界は、言葉でもあり、つぶやきであり、おしゃべりの世界でもあります。

赤ちゃんが二本足で立ち、一歩を踏み出すとき、「パッパ、ウママッ」と発語します。そしてそれから、7日間ほどで40近くの音と言葉を学習するそうです。

5歳の頃には、言葉と言葉が組み合わせられて単語が文法的に組み合わされて会話になります。それと同じように子どもたちが目で耳で手で心で感じた「思い」が、線や点や色や形で組み合わされて「絵」になるのです。

言葉や文字で感情表現ができない幼児の絵を作文や詩を読む様に心で読み取ってください。花や動物を正確に写生することも大切ですが、さわったり、話したり、抱いたりして、感じた「心の世界」を表現する力を育てることがことも大切です。

6才、年長になると、描画に奥行きと空間が出てきます。子どもが描いたお地蔵さんがゆれます。見たまま感動した気持ちを大胆に描線で表現します。チャボの羽ばたきの瞬間を足を四本に描いて表現したりします。

一番上の塔を一番大きく描くことで五重塔の高さを表現したりします。その描法が五重塔のゆれを感じさせて高さが表現されます。この不思議なゆがみの描写が子どもらしさとして感動を与えてくれます。

ことしも変速ですが、新コロナ緊急対策期間を縫っての作品展で、「子どもたちの宇宙」をご家族揃ってご覧いただけず申し訳ございません。限られた時間ですが、花・竹・松組の子どもたちの作品を是非ご覧いただけるようにお願いします。