6月号 ◆耳がないのに、鼻がないのに、音やにおいが わかるの?◆

2015年05月20日

理事長コラム

     耳がないのに、鼻がないのに、音やにおいが わかるの?

              ザリガニって おかしいね

新緑がまぶしい季節になりました。

朝、園の門をくぐる子どもたちを みどりの風がハイタッチ、

白樺も桜もプラタナスも 両手にいっぱい葉を広げてさわやかに子どもを包んでくれる。

休日の丸の内の官庁街を散策した。

爪楊枝のような細い二本の足のスキップ、都会の雀がお菓子をついばむ。

めっきり数が減った雀の可憐な姿に心を和まされた。

 

そよ風とみどり そして、子どもたちに手を引かれて、貯水池公園のザリガニ釣りに参加した。

「あれ?釣り竿は?」

「これでつるんだよ。」

子どもたちが、手にしている釣り竿は、ハート型に切り抜いた色ボール紙に毛糸やテープを巻き付けた

簡単なつり道具。

「ザリガニが、かかった時の感触も伝わりやすいし、狭い小川、隣と絡み合う心配もないので・・。」

先生の説明に納得させられる。

グループごと輪になっての教師の説明に、子ども達は真剣に耳を傾ける。

「みんなと話し合って決めたザリガニのえさです。好きなえさを選んで下さい。」

子どもたちが考えて決めたエサは、

一位 スライスしたリンゴ(女の子の意見)

二位 チーズ (犬や猫が好きだから)

三位 さきいか (つり経験のある子の意見)

四位ウインナーの半裁(自分が一番食べたいから)

以前は、教師サイトが、事前に「さきいか」に決めて、子どもたちに渡していましたが、今回は、

「考えてみよう、試してみよう」ということで、餌も釣り道具も、自分たちでそれぞれ選んだようです。

「つれた。せんせーい きて!」

「あみをもってきて!」

小川に並んだ子どもたちから、早速反応があった。

しばらくすると、

「さきいかにかえたい」

「かえて、さきいかに」・・・

エサ替えを希望する子どもたちが並んだ。

つれる子ども達の様子を見て、子どもたちが気づいたのであろうか。子どもたちの感想がおもしろかった。

「ザリガニは、さきいかの臭いが好きみたいよ。」

「えっ!ザリガニって臭いが解るの?」

「ウインナーは、だめ。すべってザリガニがつかめない。」 「チーズはちょん切れてとれちゃうんだ。」

「リンゴはザリガニきらいみたいだ。」

ザリガニはグループで一匹持ち帰って、残りは、小川に戻すことにした。

しかし、月曜日、登園してみると、残酷にもザリガニ同士が共食いして二匹ほど死なせてしまった。

「よく見るとザリガニって怖い顔をしているね。

「ザリガニは、どうして臭いが解るんだろう?」

「耳がないのに、鼻がないのに、どうして音やにおいがわかるのザリガニっておかしいね。」

年長の部屋に出かけて大きな図鑑を広げても解らない。

降園後、私は、図鑑の写真を拡大して、ザリガニの先端にある長いひげが、においを感じる触角であるこ

とを知った。

先月の母親教室で「考えること」と「あそぶこと」が脳の発達に大きな比重を占めることについて話をさ

せていただき、ご質問やご意見をいただきました。

脳を活性化させて活動する環境としては、東京タワーが建ち、新幹線が走った。

あの昭和三十年代の人の営みが、人間の頭脳が一番活性化するため良き条件だった気がします。

電気洗濯機、テレビ、冷蔵庫が普及した頃から、人間は、頭で考えなくなり体を動かさなくなりました。

そして、日清食品が生み出したインスタントラーメンが食卓革命の火種となりました。

街のあちこちに並んだ自動販売機が登場し、パソコンが普及し、

携帯電話からスマフォンに進歩することで、人間の五感が衰えてきました。

目で見ること、鼻で臭いをかぐこと、耳で音を聞くこと、足で歩くこと、口で味わうこと、

頭で考えること、言葉で話すこと、手でつかむこと、感じること。心で感じること、

こうした人間が人間として体感することの感覚をメカにゆだねてしまった。

人間の特性は、脳の発達と手で道具を操作すること、そして意欲をもって考え工夫する心です。

頭が良いか悪いかは、脳のしわや重さではなく、蜘蛛の巣状にネットワークされた神経回路が、

「濃密か、薄いか」、によるそうです。

この神経回路は、三歳までの以下の体験を通して発達していきます。

・オモチャ、動きを目や耳で追う赤ちゃんの時期、

・両手を使ってオモチャで一人遊びをする時期、

・本物に見立てて遊ぶ二歳半頃の「見立て遊び」の時期、

・幼稚園などの友だちとかかわりあってあそぶ「ごっこ」の時期

こうしたあそびの体験の過程を繰り返し繰り返し 充足して遊ぶことで、

脳の神経回路は八〇%完成していきます。

子どもが幼くなったといわれます。原因はあそびの経験不足です。

動物の赤ちゃんは五匹とか六匹多くの兄妹で育ちます。

小さい頃から親の近くで噛み合ったりじゃれついたり「ジャクリング」(じゃれあいあそび)

して育ちます。

ところが人間の子どもは一人っ子で大人の中で保護されて育ちます。

「ジャクリング」という「嘘っこあそび」の経験が少ないために、

本能的な知恵「ほどほどの加減」が身に付いていません。

したがって、育ちの中でじゃれあうあそびから学ぶ「ほどあい」がわからないので、

真剣に噛み付きひっかいたりしてしまうのですね。

九歳までには、自分の気持ちや体調を調整する自律神経が完成する時期です。

より人間的に生きるためにも、幼児期に五感を使ってあそぶ経験を積み重ねることが大切です。