10月号 ♣庶民の日曜日はさざえさん♣

2017年09月20日

理事長コラム

 青空がすっきりして、爽やかな風が吹く季節になりました。夏が過ぎて、オレンジから青に空気が変わり涼しい風が吹く初秋…

 陽が沈むと同時に暗い帳がおり、道路の片隅からも虫の鳴き声が聞こえてくる。            草むらの虫の音、台所から漂う夕食のお料理の香り、・・・・

テレビから聞こえてくる「サザエさん」の歌声・・・                       「あぁ 日曜日がもおしまいだなぁ。また月曜日か」と、                        なぜか心が重くなったりしませんか。

昔も今も、子どももお父さんも、おじいちゃんもお母さんも、いつかどこかで感じたことがある・・・     この季節のほのかな哀愁ですね。

先月のおたよりで掲載しました浜田廣介の「やさしさ」について今月もふれてみます。

{お月様と雲}(要約)

からすは、杉の木に、ねどこをつくってすんでいました。

秋もふかくなり、からすは、だんだんさむくなってきました。

風が夜中にふきだしました。からすはさむくて目がさめました。

「やあ、まるみえになっている。」 高い空から見おろして、お月さまが、言いました。

「かわいそうに、なにか うまい くふうはないか。」 夜の雲が、ふんわりうかんでいました。

雲はながれて、だんだんにお月さまのそばに きました。

「雲さん、雲さん、そら、あの森の木のえだに、からすが、みえませんか。」

森のはずれのすぎのきに、カラスがしょんぼりとかがんでいるのがみえました。

「あれではきっとかぜをひく。」

「あなたはちょうど わたみたい。どうでしょうか。                          すこしばかりちぎってとって、 からすのからだに かけてやって くだしさいませんか。」

「わかりました。」 「わたしのからだぜんたいに つつんであげよう。」

からすは、そのばん、もう一ど、ねて、 あおいごてんにすんでいる白いからすの                すてきなゆめをみました。

浜田廣介の「お月さ様と雲」のお話は、母親の愛情の温もりですね。カラスも寒いだろう。「やわらかく カラスをつつんでやってちょうだい」と雲に声をかけるお月さまの気配りは、孫を見守るおばあちゃんの優しさにもつうじますね。

廣介童話は、素朴な温かさを滲ませる秋の季節にふさわしい童話です。 有名な「ないた赤鬼」は、村人と仲良くしたいと願っている赤鬼の気持ちを察して、わざと悪役をかってでる青鬼のやさしさを描いています。青鬼のやさしさは、お父さんのやさしさであり、ちょっぴり照れたおじいちゃんの孫へのやさしさに共通します。

わたしは、浜田廣介の童話の世界に導かれて山形県の高畠の廣介の「むくどりの夢」に縁がある「むくどり幼稚園」の子どもたちと生活を共にしたことがあります。雪深い小さな部落の子どもたちは、私が訪れるたびにホッぺを赤くして喜び、私が語る浅草の賑わい、ディズニーランド、銀座や東京タワーの話に耳を傾けてくれます。まるで私は、ガリバー役、子どもたちは肩にぶらさがり、耳を引っ張り、足元をくぐったりしてあそびます。そして、子どもたちが描いてくれた私の人物画には、ハートマークや東京タワーの地下を走る電車…が描かれていました。

子どもと仲良しになる秘訣は、子どもを立派に教育しようとかいう難しい構えを捨てて、嬉しいときは、子どものように喜び、叱るときは叱り、子どもを丸ごと受け入れる大人の懐の温もりと心の温かさだと思います。

廣介童話の世界をこの誌面で何回も紹介するのは、廣介の長女が書いた廣介伝を見る限り、廣介は子どもとのふれあいに、特有の「はにかみ」があり、そのはにかみは、子どもに語りかける祖父母のやさしさに共感するように思えるからです。廣介の優しさの原点は、ふる里から孫の成長を見守る、おばあちゃんやおじいちゃんの「やさしさ」に共通するような気がします。

戦後70年、お金さえあれば、形に見える物は手に入れられる時代を経験してきました。

その一方で、昔は当たり前であった親切、友情、思いやり・・・形では見えない形では見えない人間同士の心の風船は、お金でも買えない大切なものであることに気が付き始めました。

実践が伴わない理屈が先行される教育、お金で買えると錯覚される傾向のある子育て制度・・・・、どれもこれも子ども不在の制度の押し付けです。

子どもが真に求めているのは、お金で買えない「家庭のやさしさと温かさ」です。

愛情に包まれて両親からすり込まれたアタッチメント(愛着)の温もりは、「子どもが人間として生きていくための幸せの原風景」です。

母胎ですり込まれたおかあさんの「ぬくもり」と父親の「まなざし」は、人間の乳幼児期に両親から刷り込まれる子が育つ「隠し味」(アタッチメント)です。この隠し味を刷り込む時期は乳幼児期です。

秋は心の温かさが弾む季節です。「さざえさん」が長寿番組である最大の原因は、三世代の家庭が、和やかで幸せだからです。

きっと日曜日のささやかな幸せ感は、さざえさんの一家のささやかな食卓に代表される昔ながらの幸せ感とリンクするのでしょう。さざえさんは、平和な庶民の日曜日です。

秋は、運動会はじめご家族そろって子どもの成長をやさしく見守れる季節です。

安らぎを大切にしているさざえさんの平和な家庭を破壊する核戦争をおこすような過ちを絶対におこしてはいけないことを祈るばかりです。